天理の中村良二監督(54)が決勝を戦った生駒を思い、生駒への教え子の心遣いに成長を感じ、涙にくれた。ドラフト候補の戸井零士主将(3年)の4安打3打点や、松本大和内野手(1年)の本塁打など23安打21得点で大勝。エース南沢佑音(ゆうと、3年)ら4人の投手で生駒打線を無得点に封じ、5年ぶり29度目の夏の甲子園出場を決めた。

ただ試合後、天理ナインはマウンドに集まって優勝を喜ぶことをせず。相手校の生駒に体調不良の選手が続出し、ベストメンバーで臨めなかった事情に配慮。9回2死、選手だけでタイムを取ってマウンドに集合し、主将の戸井が「試合後に喜ぶのはやめとこう」と提案。ナインも受け入れた。生駒の最後の打者から空振り三振を奪ったエースの南沢佑音(ゆうと、3年)は右手のこぶしを握っただけで、すぐに整列した。

その姿も、普段から涙もろい中村監督の涙腺を緩ませた。球場到着後、騒然とした球場内の雰囲気で生駒の異変を知ったという。「選手には勝負事は手を抜く方が失礼なんで、全力で戦えと話して試合に入りました」と明かし「3年生も含めてスタンドもベンチも喜びたかったと思うんですが、子どもたちもそれを察してくれたのか…」と、そこまで話して言葉が詰まった。

「そういうところがすごく成長したかなと。まわりのことも考えてやれるようになったんだなと。たぶん、わーっと喜びたかったんだと思うんですけどね、優勝したんやから」と、教え子の相手校への心遣いに目を潤ませた。

主将の戸井も「ベストのメンバーじゃないことが試合前にわかっていた。試合の中では正々堂々とやるのが戦う上で大事なことですが、終わったあとは自分たちの中でも喜びをいったん抑えて整列しようと話しました」と明かした。伝統校らしく、相手への気遣いも奈良県王者にふさわしいものだった。