【ニューヨーク=吉松忠弘】その時がやってきた。今大会限りでの引退を示唆している4大大会23度の優勝を誇るセリーナ・ウィリアムズ(40=米国)が、ついに力尽きた。同46位のアイラ・トムリャノビッチ(29=オーストラリア)に5-7、7-6、1-6の3時間を超える熱戦の末に、30年以上のテニス人生に終止符を打った。

最後のショットは、ネットに出るために打ったフォアのアプローチショットだった。最後も、自身のテニスを貫く、積極果敢なプレーだったが、球は無情にネットにかかり、ついにセリーナの時代が幕を閉じた。

「必ず見ていると信じている、お父さん。そして、お母さん、本当にありがとう」。テニスを始めたきっかけとなった両親に感謝すると、涙があふれた。そして「ビーナスがいなければ私はいなかった」と姉にお礼を述べると、姉もそっと涙を拭った。

最後、5本のマッチポイントを跳ね返し、必死で去ることを拒んだ。しかし、最終セットはあまりにも差が開きすぎた。第1セットは5-3、第2セットも5-2とリードしながら、もつれた。第1セットを取っていれば、流れは完全に変わったかもしれない。

この日の試合も、セリーナへの一辺倒な声援で、異様な雰囲気に包まれた。地元でカリスマのセリーナだけに、声援の偏りは致し方がない。しかし、トムリャノビッチがミスやダブルフォールトを犯すと万雷の拍手。揚げ句の果てには、第1サーブをフォールトするだけで、ダブルフォールトを促す拍手が響き渡った。

試合後も、勝者のトムリャノビッチは待たされ続けた。セリーナのインタビューが優先され、会場はセリーナの言葉に感動し、興奮のるつぼに。その後、ようやく勝者は勝利インタビューを許され、勝ったことよりも、セリーナへの感想を求められた。

それもこれも、セリーナが時代をつくり、女子テニス界、いや女子スポーツ界のアイコンとして、歴史を刻んできた証明なのだろう。セリーナ一辺倒の演出こそが、ひとつの時代が終わったことを示していた。

◆全米オープンテニスは、8月29日から9月12日まで、WOWOWで全日生放送。WOWOWオンデマンドとテニスワールドでも全コートでライブ配信される。